
2021年3月、JR東日本からとある車両のラストラン企画が発表されました。現在上越新幹線で活躍中の「E4系新幹線」が2021年秋頃に引退を予定していることから、その花道を飾るための各種企画を始動させるという趣旨でした。
実は本来E4系新幹線は、既に営業列車としては姿を消している予定でした。当初の予定では上越新幹線にも北陸新幹線で活躍するE7系(上写真)を投入し、老朽化が進んだE4系は2020年に全車引退するはずでした。
その予定が引き延ばされたのは2019年に猛威を振るった台風の被害が原因です。台風がもたらした大雨は長野県を流れる千曲川(ちくまがわ)を氾濫させ、北陸新幹線長野駅に程近い車両基地を水没させました。これにより北陸新幹線用車両10編成が廃車となり、補填のために本来上越新幹線に投入予定だったE7系を北陸新幹線用に回しました。その結果、本来いなくなっているはずのE4系がまだ活躍を続ける事態となったのです。
ただこのE4系、普通の新幹線車両ではありません。既にデビュー(1997年)から約25年が経過していますが、いまだに本来の登場目的を果たし続ける珍しい車両です。同時期に登場した500系「のぞみ」(上写真上)やE3系「こまち」(上写真下)といった速達列車用車両が、各駅停車の「こだま」や朝夕ラッシュ時の増結用として活躍している現状を考えると、E4系の珍しさが際立ちます。
以前も紹介しましたが、E4系の登場目的は大きく分けて2つあります。1つは全車2階建てとすることで、より多くの乗客を一度に運べるようにすることです。登場当時、徐々に増えつつあった新幹線通勤によって朝夕ラッシュ時の乗車率が問題視されていました。つり革がなく、1車両に2ドアしかない新幹線車両は通勤電車としては不向きです。また追加料金が必要な新幹線列車に立席は用意できないため、混雑緩和には座席数を増やすしか方法はありませんでした。
この解決策としていち早く投入されたのがE4系の先輩にあたるE1系(上写真@鉄道博物館)です。E1系も全車2階建ての新幹線として活躍しましたが、12両の固定編成としたために朝夕以外は輸送力を持て余し、E4系よりもかなり早く引退してしまいました。この使い勝手の悪さが、後続のE4系にもう一つの登場目的をもたらしました。
その目的とは運用の柔軟性を持つことです。自社の新幹線ならどこにでも入線でき、他車種と連結もでき、大量輸送もこなせる。そうした多くの目的を達成できることがE4系のもう一つの登場目的でした。E1系とE4系の愛称「MAX(Mulch Amenity eXpress)」のコンセプトを純粋に追い求め、E4系は8両の固定編成として登場。メインルートの東北・上越新幹線はもちろん、一部編成は電気設備や急勾配によって車種が限られる北陸新幹線(当時は長野行新幹線)にも入線可能。福島駅から分岐する山形新幹線との連結もこなし、関東近県の朝夕ラッシュ時には全車2階建て16両編成という収容能力を遺憾なく発揮しました。
最末期の現在でも朝ラッシュ時に16両編成が上越新幹線を走り、1634名という高速鉄道で世界一の定員数で通勤客の需要に応えています。この大量輸送という役割だけはデビュー当時から現在まで一貫して変わりません。最後まで第一線で役割を全うできるE4系は近年稀に見る幸運な車両なのかもしれません。
今回はここまでです。次回はE4系の車内をご紹介します。
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